Photoshop以前の切り抜きは、本当に切って塗っていた

19世紀の写真工房でガラス乾板と手切りマスクを加工する職人のイラスト
デジタル以前の写真修整・マスキング作業をもとにしたイメージ。写真史資料を参照して制作したAI生成図版です。
デジタル以前の合成手段
遮光 焼き込み時に光を止める
多重露光 複数の像を同じ紙へ焼く
修整 ネガや印画へ筆を入れる

一枚の写真が、一度の撮影とは限らなかった

19世紀の写真家は、空と地上を別々のネガから焼き付けたり、人物を一人ずつ合成したりしました。当時の感光材料では明るい空と暗い地上を同時に適正露出にするのが難しく、合成は技術的な解決でもありました。

印画紙へ光を当てるとき、厚紙や手で一部を遮る覆い焼き、特定部分だけ長く当てる焼き込みも使われました。現在の画像編集ソフトにある dodge と burn という名前は暗室作業から来ています。

マスクは物理的な遮光板だった

被写体の形に切った紙や不透明塗料で、光を通す場所と止める場所を分けました。ガラス乾板の乳剤を削る、鉛筆や絵具で濃度を変えるなど、元の写真へ直接手を加える修整も行われました。

デジタルのレイヤーマスクは、画素を消さずに表示範囲を記録します。刃物や塗料で作っていた境界を、白黒の別画像として持つようになったと考えると仕組みが分かります。

「加工されていない写真」という神話

写真は初期から、撮影、現像、印画、トリミング、修整の選択を経て完成していました。デジタル加工が突然写真を不確かにしたのではなく、加工の速度と痕跡の見つけにくさを大きく変えたのです。

参考資料